日本人の親が亡くなり、日本国籍のまま中国に住んでいる場合の相続手続き
被相続人が日本人で日本在住、相続人が日本国籍のまま中国に住んでいる場合の相続手続きを解説します。準拠法は日本法で確定し、争点は印鑑証明書の代わりとなる署名証明・在留証明の取得に絞られます。総領事館での注意点と期間の見込みを整理します。
日本人の親が亡くなり、日本国籍のまま中国に住んでいる場合の相続手続き
日本で暮らしていた日本人の親が亡くなり、相続人である自分は日本国籍のまま中国に住んでいる——駐在、現地採用、移住など、経緯はさまざまですが、当事務所へのご相談で最も件数が多いのが、被相続人が日本人・相続人が日本国籍で中国在住という組み合わせです。
被相続人が日本人であるこの組み合わせは、国際相続の中では最も見通しの良い部類に入ります。 適用される法律は日本法で確定しており、相続人の確定も日本の戸籍で完結します。残る争点は、印鑑登録証明書を用意できないという一点だけです。
それでも半年以上止まってしまう方がいらっしゃいます。以下では、手続きが止まる箇所と、止まらないための準備を整理します。
この記事の要点
- 被相続人が日本人で日本に住んでいた場合、準拠法は日本法です。相続人が中国にいることは、相続人の範囲や相続分に影響しません。
- 被相続人の戸籍がありますので、相続人の確定は通常どおり進みます。法定相続情報一覧図も利用できます。
- 唯一の論点は、中国在住の相続人が印鑑登録証明書を取得できないことです。
- 日本国籍であれば、在中国日本国大使館・総領事館の署名証明(サイン証明)と在留証明で代替できます。
- ただし、海外転出届を出していなければ印鑑証明書は取得できます。まず住民登録の有無を確認してください。
1. 法律の心配はいりません
日本の法の適用に関する通則法では、相続は被相続人の本国法によるとされています。被相続人が日本国籍であれば、本国法は日本法です。
したがって、相続人が誰か、法定相続分がいくらか、遺留分があるかは、すべて日本の民法で判断します。相続人が中国にいることは、相続人の範囲と相続分の判断を一切変えません。
国際相続と聞いて「どの国の法律になるのか」を心配される方が多いのですが、被相続人が日本人であれば準拠法の論点は生じません。以下はすべて書類の話です。
2. まず確認してください:海外転出届を出しましたか
最も見落とされる点です。
印鑑登録は、日本の市区町村に住民登録がある人の制度です。海外転出届を出していなければ、住民票も印鑑登録も生きています。 短期の駐在などで住民票を残したままの方は、日本のご家族に委任して印鑑証明書を取得すれば、国内在住者とまったく同じ形で手続きできます。
住民登録が残っているかどうかで、以降の手順は変わります。ご自身の状況が不明な場合は、日本のご家族に市区町村役場でご確認いただけます。
以下は、住民票を抜いている方向けの説明です。
3. 印鑑証明書の代わりに使う2つの証明
日本国籍の方であれば、在中国日本国大使館・総領事館で次の証明を受けられます。
| 証明 | 何の代わりになるか |
|---|---|
| 署名証明(サイン証明) | 実印と印鑑登録証明書 |
| 在留証明 | 住民票(現住所の証明) |
遺産分割協議書には署名証明を、不動産の相続登記などで住所の証明が必要な場面では在留証明を使います。
署名証明には2つの形式があります
- 綴り合わせ形式:遺産分割協議書などの書類と証明書を綴じ合わせ、その書類に署名したことを証明する形式
- 単独形式:書類とは切り離し、署名(および拇印)そのものを証明する形式
どちらを使うかは提出先によります。 綴り合わせ形式を求める提出先もあれば、単独形式の証明書を添付すれば足りる提出先もあります。
単独形式は、遺産分割協議書の完成を待たずに取得できます。
出向く前に決めておくべきこと
- 形式:提出先が綴り合わせ形式と単独形式のどちらを求めるか
- 必要な通数:提出先が複数ある場合、まとめて取得します。後から追加すると再度出向くことになります
- 在留証明に必要な資料:現住所を証明する資料(賃貸借契約書、公共料金の請求書など)と、現住所に住み始めた時期が分かる資料
- 管轄:お住まいの地域を管轄する公館に行く必要があります
中国は国土が広く、管轄の総領事館まで距離がある地域も少なくありません。
4. 日本側の作業は日本国内で完結します
被相続人が日本人である場合の利点は、中国にいる相続人にお願いする作業を、署名と証明の取得だけに絞れることです。
日本国内で完結する作業は次のとおりです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍の収集
- 相続関係説明図、法定相続情報一覧図の作成
- 財産の調査(金融機関への照会、不動産の確認)
- 遺産分割協議書の作成
- 金融機関ごとの相続届の準備
法定相続情報一覧図を使えば、一覧図の写しを必要な通数交付してもらえます。 複数の金融機関に同時に提出できるため、戸籍の束を郵送で回す必要がなくなり、全体の期間が短縮されます。
5. 受け取り方を先に決めてください
手続きが完了しても、受け取る方法がなければ意味がありません。
- 日本の預貯金の払戻しは、原則として日本国内の口座への振込みです
- 日本の口座を維持されているかを確認してください。長期間動きがないと休眠預金の扱いになっている場合があります
- 日本の不動産を相続した場合、管理・固定資産税の納付・将来の売却をどうするかが残ります
誰がどの財産を相続するかによって、受け取りの手間は変わります。
6. 期間の見込み
| 手続き | 期限 |
|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 相続の開始を知った時から3か月 |
| 相続税の申告・納税 | 死亡を知った日の翌日から10か月 |
| 不動産の相続登記 | 取得を知った日から3年(義務) |
被相続人が日本人である場合は国際相続の中では進めやすい部類ですが、それでも全体で4〜6か月を見込んでください。実際の工程は次のように積み上がります。
| 工程 | 目安 |
|---|---|
| 戸籍の収集、相続人の確定 | 1〜2か月 |
| 財産の調査(金融機関への照会、不動産の確認) | 1か月程度(並行可) |
| 遺産分割協議書の作成と内容の合意 | 数週間 |
| 署名証明の取得と国際郵送 | 3週間〜1か月 |
| 金融機関ごとの提出と払戻し | 1行あたり2週間〜1か月 |
金融機関が複数あれば、最後の提出と払戻しの工程は金融機関の数だけ発生します。 3行あれば、順に回して2か月を超えることもあります。
相続税の申告が必要な事案では、10か月の期限に上記の全工程を収める必要があります。着手が死亡から3か月を過ぎていると、余裕がなくなってきます。
中国にいる相続人が一人で日本の戸籍を集めようとして最初の工程で止まり、気づいたら半年経っていた——という行き詰まり方が典型です。
当事務所の対応
行政書士アーチ事務所は、大阪を拠点に15年以上、日中間の手続きに携わってきました。中国にお住まいの相続人の方とも直接やり取りしています。
- 住民登録の状況を確認し、印鑑証明書と署名証明のどちらで進めるかを最初に確定
- 日本国内での戸籍収集、相続関係説明図・法定相続情報一覧図の作成
- 総領事館で綴り合わせの署名証明を受けられる形式の遺産分割協議書の作成
- 必要な証明の通数の見積もり
- 金融機関の解約・払戻し手続きのサポート
- 相続登記が必要な場合の司法書士、相続税申告が必要な場合の税理士との連携
中国にいらっしゃる方の手間を最小限にするのが、当事務所の進め方です。
よくあるご質問
Q. 中国から日本に帰らずに手続きを終えられますか。 A. 預貯金の相続が中心であれば、帰国せずに完了できるケースが多くあります。総領事館へは中国国内で出向いていただきます。
Q. 署名証明は何通取ればよいですか。 A. 提出先の数によります。金融機関ごとに原本を求められる場合があるため、先に提出先を洗い出してから通数を決めます。当事務所では必要通数の見積もりを事前に行っています。
Q. 中国の公証処で公証を受ければ足りますか。 A. 日本国籍の方であれば、総領事館の署名証明を使うのが確実です。公証処のルートは日本国籍でない相続人が使う方法です。
Q. 相続人が日本と中国に分かれています。 A. 相続人の居住地が分かれていても手続きは進められます。日本にいる相続人は印鑑証明書、中国にいる相続人は署名証明と、それぞれ異なる書類で同じ協議書に参加していただきます。
Q. 中国にいる私にも日本の相続税はかかりますか。 A. 日本国内にある財産は、相続人の住所や国籍にかかわらず日本の相続税の課税対象です。課税範囲の判定は税理士による確認が必要です。
お問い合わせ
相続人が中国にいる場合でも、被相続人が日本人であれば、進め方はある程度定まっています。
ご相談の際は、被相続人の死亡日、相続人の人数と居住地、ご自身の住民登録の状況、日本にある財産の種類をご用意ください。日本語・中国語どちらでも対応いたします。
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