日本に財産がある場合の国際相続の基本|どの国の法律で、誰が、何を相続するのか

被相続人や相続人が海外に関わる国際相続では、まずどの国の法律を適用するかを確定させる必要があります。日本の通則法による本国法主義と反致、中国・台湾・香港などの傾向、日本にある財産に必ず日本の相続税がかかる理由を整理します。

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日本に財産がある場合の国際相続の基本|どの国の法律で、誰が、何を相続するのか

「日本にある父の預金と不動産を相続したい。ただし父は中国籍で、私は海外に住んでいる」——このとき最初に決めなければならないのは、手続きの段取りではありません。そもそも、どの国の法律に従って相続するのかです。

ここを飛ばして書類を作り始めると、相続人の範囲そのものが変わってしまい、遺産分割協議をやり直すことになります。国際相続で最も費用のかかる失敗が、この入り口の取り違えです。

この記事では、日本に財産がある国際相続の骨格を、準拠法・手続・税金の3つの層に分けて整理します。

この記事の要点

  • 国際相続では、準拠法(どの国の法律で相続するか)/手続(どの国の役所や金融機関のルールで動くか)/課税(どの国が税を課すか)の3つが、それぞれ別々に決まります。
  • 日本の法律では、相続の準拠法は原則として被相続人の本国法です(法の適用に関する通則法36条)。
  • ただし反致という仕組みがあり、被相続人の本国法が「日本法によるべきだ」と定めている場合には、日本法が適用されます。中国籍の方や英米法圏に居住していた方では、この反致によって日本法が適用されるケースが実務上多くあります。
  • 準拠法が外国法になっても、日本の銀行や法務局での手続きは日本のルールで進みます。
  • 相続税については、日本国内にある財産は、被相続人・相続人の国籍や住所を問わず、必ず日本の相続税の課税対象になります。相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)は、2026年度の税制改正でも変更されていません。

1. 「国際相続」と呼ばれる3つのパターン

日本の実務で国際相続として扱われるのは、次のいずれかに該当する場合です。

パターン具体例
相続人が海外にいる被相続人は日本在住の日本人。子が中国・台湾・シンガポールなどに居住
被相続人が外国籍日本に長く住んでいた中国籍・韓国籍の方が、日本に不動産や預金を残して死亡
財産が複数国にある日本の預金と、居住国の不動産が両方ある

このうち当事務所へのご相談で最も多いのは、被相続人が外国籍で、日本国内に財産があり、相続人も海外にいるという重なったパターンです。難易度が上がるのは、次に説明する準拠法の判断が必要になるためです。

2. 第1の層:どの国の法律で相続するか(準拠法)

日本のルールは「被相続人の本国法」

日本には、渉外的な法律関係にどの国の法を適用するかを定めた「法の適用に関する通則法」という法律があります。相続については、被相続人の本国法によると定められています。

つまり、日本に住んでいた中国籍の方が亡くなった場合、出発点は中国法です。相続人が誰か、法定相続分がいくらか、遺留分があるかどうかも、その国の法律で決まることになります。

ここで効いてくるのが「反致」

ところが、相手国の法律を見に行くと、その国が「この場合は日本法で処理せよ」と定めていることがあります。このとき日本法に戻ってくる仕組みを反致といいます。

判断の傾向を大まかに整理すると、次のようになります。

被相続人の本国・居住地傾向
中国(大陸)法定相続は被相続人の常居所地法、不動産については所在地法とされているため、日本に居住していた方や日本の不動産については、反致により日本法が適用されることが多い
台湾被相続人の本国法によるとされており、台湾法がそのまま適用される方向で検討する
韓国本国法主義。ただし被相続人が居住地法を指定していた場合の扱いなど、個別の確認が必要
香港・シンガポールなど英米法圏動産は死亡時の住所地法、不動産は所在地法という分け方(相続分割主義)をとるため、日本にある不動産は日本法になりやすい

注意していただきたいのは、これはあくまで傾向だということです。 被相続人がいつからどこに住んでいたか、財産が動産か不動産か、遺言があるかによって結論は動きます。当事務所では、初回の段階でこの前提事実を確認し、必要に応じて弁護士や現地の専門家と連携して判断します。

準拠法が変わると何が変わるのか

  • 相続人の範囲:日本法では配偶者と子が相続人ですが、国によっては範囲や順位が異なります
  • 法定相続分:割合が変わります
  • 遺留分:制度そのものが存在しない国もあります
  • 遺言の有効性:方式が有効かどうかの判断基準が変わります

相続人の範囲が変われば、遺産分割協議に参加すべき人が変わります。一人でも欠けた協議は無効ですから、ここが最も重大な分岐点になります。

3. 第2の層:手続は日本のルールで動く

ここが誤解されやすい点です。準拠法が外国法だと判断されたとしても、日本の銀行で預金を解約し、日本の法務局で不動産の名義を変える作業は、日本の実務ルールに従って行います。

具体的には、

  • 相続人であることを、日本の金融機関や法務局が納得する書面で証明しなければならない
  • 被相続人が外国籍で日本の戸籍がない場合、本国の出生証明書・婚姻証明書・死亡証明書などを取り寄せ、日本語訳を付けて戸籍の代わりとする
  • その国の法律で相続人がこうなる、という点を説明するため、準拠法の条文とその訳文の提出を求められることがある
  • 海外在住の相続人は、印鑑証明書の代わりに在外公館の署名証明を用意する

といった作業が発生します。日本人同士の相続なら戸籍謄本を数通集めれば済むところが、国際相続では証明書の収集・翻訳・整合性の説明という三重の作業になります。当事務所が国際相続で最も時間を使うのも、この部分です。

4. 第3の層:日本にある財産には、必ず日本の相続税がかかる

準拠法がどの国の法律になっても、課税は別のルールで決まります。ここも独立した判断です。

押さえるべき原則

日本の相続税では、日本国内にある財産は、被相続人と相続人の国籍・住所にかかわらず課税対象となります。海外在住の外国籍の方が、日本の不動産だけを相続する場合でも、日本の相続税の対象外にはなりません。

一方で、国外にある財産まで日本の相続税の対象になるかどうかは、被相続人と相続人それぞれの住所地・国籍・過去10年間の日本での居住歴によって変わります。この判定を誤ると、申告の範囲そのものを間違えることになります。

基礎控除

相続税がかかるかどうかの目安となる基礎控除は、3,000万円+600万円×法定相続人の数です。令和8年度(2026年度)の税制改正では所得税の基礎控除が引き上げられましたが、相続税の基礎控除は変更されていません。名称が似ているため混同されやすい点ですので、ご注意ください。

なお、この「法定相続人の数」は日本の相続税法の考え方で数えます。準拠法が外国法である場合の取り扱いは論点になり得るため、実際の申告にあたっては税理士による判断が必要です。当事務所では、相続税申告が必要と見込まれる案件について、国際案件の経験がある提携税理士におつなぎしています。

5. 財産の種類ごとに、手続き先も必要書類も違う

日本にある財産といっても、手続きは一本化されていません。

財産手続き先特徴
預貯金各金融機関銀行ごとに様式が異なる。海外在住者の取り扱いは金融機関ごとに差が大きい
不動産法務局(相続登記)2024年4月から義務化。申請は司法書士の業務
上場株式・投資信託証券会社相続人名義の口座開設が前提。海外在住者は口座を開けない場合がある
生命保険金保険会社受取人固有の財産となり、遺産分割の対象外となる場合がある
自動車・その他運輸支局など個別の手続き

口座が5つの銀行に分かれていれば、5回同じ作業をすることになります。 海外在住の相続人にとっては、その都度の書類のやり取りが負担になります。

6. ご相談の前に確定させておきたい5つの事実

国際相続の見通しは、次の5点が分かれば大半が立ちます。

1. 被相続人の国籍(死亡時点。帰化していれば帰化の時期も) 2. 被相続人が最後に住んでいた国と、そこに住んでいた期間 3. 相続人の人数・続柄・国籍・現在の居住国 4. 日本にある財産の種類と、おおよその所在(銀行名、不動産の所在地など) 5. 遺言書の有無

この5点が揃っていれば、初回のご相談で、適用される可能性の高い法律、必要になる書類の方向性、想定される期間をお伝えできます。逆に、これが曖昧なまま書類を作り始めるのが、最も遠回りになるパターンです。

7. 国際相続でよくある3つの誤解

「外国籍だから日本の手続きはできない」 できます。日本にある財産は日本で手続きすることになり、外国籍であること自体が障害になるわけではありません。必要な証明書の種類が変わるだけです。

「本国で相続手続きをすれば日本の財産も動く」 動きません。日本の金融機関や法務局は、日本の実務に沿った書面を求めます。本国での手続き結果は、それを裏付ける資料の一つとして使うことになります。

「日本に住んでいないから日本の相続税は関係ない」 関係します。日本国内にある財産は、住所や国籍に関係なく日本の相続税の課税対象です。

よくあるご質問

Q. 被相続人が外国籍で、日本の戸籍がありません。相続人をどう証明しますか。 A. 本国が発行する出生・婚姻・死亡に関する証明書を取り寄せ、日本語訳を添えて相続関係を証明します。国によって発行される証明書の種類が異なるため、どの書類の組み合わせで足りるかを最初に設計することが重要です。

Q. 準拠法が外国法になった場合、その国の弁護士に依頼する必要がありますか。 A. 日本国内での手続きに限れば、必ずしも必要ではありません。ただし、その国の法律で相続人や相続分がどうなるかを日本の窓口に説明する必要があるため、現地の法律事務所の意見書を取得したほうが確実な場合があります。

Q. 日本と居住国の両方で相続税がかかることはありますか。 A. あり得ます。二重課税を調整する仕組みとして外国税額控除がありますが、適用の可否と範囲は個別判断です。税理士による確認が必要です。

Q. 遺言書が外国語で作成されています。日本で使えますか。 A. 方式が有効であれば使える可能性があります。日本で用いるには日本語訳が必要で、内容によっては家庭裁判所での検認手続きが必要になる場合もあります。

Q. 相続人の中に、日本に来たことがない人がいます。 A. 手続きは可能です。居住国の在外公館などで署名証明を取得していただく形で進めます。国によって取得方法が異なるため、事前の確認が欠かせません。

入り口の判断を間違えないために

国際相続は、専門家の間でも「最初の見立てで9割決まる」と言われる分野です。準拠法・手続・課税という3つの層のどれか一つでも読み違えると、集めた書類が使えなくなります。

行政書士アーチ事務所は、大阪を拠点に15年以上、在留資格をはじめとする外国籍の方・海外在住の方に関わる手続きを扱ってきました。中国語での対応が可能で、中国・台湾・香港にお住まいの相続人の方からのご相談も承っています。

「自分のケースにどの国の法律が適用されるのか分からない」という段階でご相談いただくのが、結果的に最も費用を抑えられる進め方です。上記の5つの事実をお手元にご用意のうえ、お問い合わせください。日本語・中国語どちらでも対応いたします。

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