ARTICLE 10
試用期間中の注意点|「合わなければ辞めてもらえる」は誤解です
多くの会社が試用期間を設けています。試用期間を設ける目的は、正式採用前に従業員が自社に適しているかを判断し、適合しない場合に本採用を見送ることにあります。
実際、試用期間中に能力不足・欠勤の繰り返し・勤務態度の問題などが発覚し、期待に応えられないケースは少なくありません。特に無期雇用の正社員については、「合わない従業員とは早期に関係を解消したい」と考える経営者も多いでしょう。
しかし、試用期間が終わっても、会社が自由に従業員を辞めさせることはできないことをご存知でしょうか。
試用期間の法的な位置づけ
法律上の「試用期間」は、一般的なイメージとは異なります。
試用期間制度の本質は、一定期間内に従業員の人柄・能力・健康状態等を調査・観察し、その結果に基づいて本採用の可否を決定するための制度です。
法的には、試用期間中の労働契約は「解約権留保付き労働契約」と解されています。つまり、一定の条件のもとで会社側に解約権が留保されているというものです。
本採用拒否は自由にできない
「それなら試用期間中に辞めてもらえばいい」と思われるかもしれません。しかし、ここが重要なポイントです。
最高裁判所の判例(三菱樹脂事件・最判昭和48年12月12日)は、以下のように明示しています。
解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認される場合にのみ、本採用拒否が認められる。
具体的に認められうる理由は、主に以下の2つです。
1. 採用決定後に調査により判明した新たな事実 2. 試用期間中の業務遂行状況・勤務態度等
つまり、採用時には知ることができなかった・合理的に予見できなかった重要な事実が明らかになり、かつそれによって継続雇用が不適当と判断される場合にのみ、解約権の行使が認められます。
実務上の3つのポイント
ポイント1:試用期間終了時に自由に本採用拒否はできない
「試用期間があるから大丈夫」という認識は誤りです。本採用拒否にも、通常の解雇と同様に合理的な理由が必要です。
ポイント2:採用前から知っていた事実は理由にならない
採用時にすでに把握していた事実を後から本採用拒否の理由にすることはできません。採用前に十分な選考・審査を行うことが重要です。
ポイント3:通常解雇より基準は低いが、それでも合理的理由が必要
本採用拒否は通常の解雇よりは広く認められますが、「なんとなく合わない」「印象が悪い」といった主観的理由では認められません。客観的な事実・記録の積み重ねが不可欠です。
試用期間中に会社がすべきこと
問題点を記録する
能力不足・欠勤・勤務態度の問題があった場合は、日時・内容・指導の経緯を記録しておきます。記録がなければ、後から本採用拒否の理由を主張することが難しくなります。
指導・改善の機会を与える
問題がある場合は、放置せずに指導・注意・改善指示を行い、その機会を与えたことを記録します。改善の機会を与えないまま本採用拒否することは、合理性を欠くと判断されやすくなります。
試用期間の延長を活用する
就業規則に定めがある場合、試用期間の延長が可能なケースがあります。判断に迷う場合は、延長して観察期間を設けることも選択肢の一つです。
試用期間中の解雇についての注意点
試用期間開始から14日以内であれば、解雇予告・解雇予告手当なしに解雇できる場合があります(労働基準法第21条)。しかし、14日を超えた場合は通常の解雇と同様に30日前の予告または解雇予告手当の支払いが必要です。
また、試用期間中であっても、解雇には合理的な理由が必要です。
まとめ
- 試用期間は「自由に辞めさせられる期間」ではない
- 本採用拒否には客観的・合理的な理由が必要(最高裁判例)
- 採用前から知っていた事実は理由にならない
- 問題行動の記録・指導の実施が本採用拒否の根拠となる
- 試用期間14日超の解雇は、解雇予告または予告手当が必要
試用期間中の対応・本採用拒否の判断については、お気軽にご相談ください。
本記事は2026年6月時点の法令に基づいています。
執筆:社会保険労務士アーチ事務所(大阪)