在日ベトナム人の親が亡くなり、相続人がベトナムにいる場合|父母も第一順位の相続人です
日本に住んでいたベトナム籍の方が亡くなり、相続人がベトナムにいる場合の相続手続きを解説します。ベトナム法では父母や養親も第一順位の相続人となり、日本の民法とは相続人の範囲が異なります。日本の不動産の準拠法についての解釈の問題も整理します。
在日ベトナム人の親が亡くなり、相続人がベトナムにいる場合
日本に住んでいたベトナム籍の方が亡くなり、日本に預金や不動産が残っている。相続人である子や配偶者はベトナムにいる——技能実習や特定技能をきっかけに来日し、そのまま日本で生活を続けてこられた方が増えるにつれ、相続のご相談も出てきています。
この組み合わせで最初に押さえるべきことは、誰が相続人になるかです。 ベトナム法では、日本の民法と相続人の範囲が異なります。
この記事の要点
- 被相続人がベトナム籍の場合、準拠法はベトナム法です。ベトナム民法680条1項が、相続は被相続人が死亡直前に国籍を有していた国の法によると定めています。
- ベトナム法では、第一順位の相続人に配偶者・実父母・養父母・実子・養子が含まれます。 日本の民法と違い、父母が子と同じ順位に入ります。
- 同順位の相続人の相続分は均等です。
- 日本にある不動産が含まれる場合は、管轄の法務局への確認が必要です。
- 被相続人に日本の戸籍がないため、法定相続情報一覧図は利用できません。
1. 準拠法はベトナム法です
日本の法の適用に関する通則法第36条は、相続は被相続人の本国法によると定めています。被相続人がベトナム籍であれば、ベトナムの法律を見ることになります。
ベトナム民法680条1項は、相続は被相続人が死亡の直前に国籍を有していた国の法令に従って確定されると規定しています。ベトナム法が再びベトナム法を指すため、日本法への反致は生じません。
被相続人が日本に居住していた期間の長短は、この結論を変えません。
日本にある不動産の扱いは法務局への確認が必要です
ベトナム民法680条2項は、不動産に関する相続権の行使は不動産が所在する地の国の法令に従って確定されると規定しています。
日本にある不動産が含まれる場合は、管轄の法務局に確認して進めます。 ベトナム法の条文と訳文の提出を求められるか、どの範囲の相続人の書類を求められるかは、確認して定まります。金融機関では、ベトナムの弁護士が作成した準拠法についての意見書を求められる場合があります。
2. 相続人の範囲が日本の民法と異なります
ベトナム民法651条は、法定相続人を次の順位で定めています。
| 順位 | 相続人 |
|---|---|
| 第一順位 | 配偶者、実父母、養父母、実子、養子 |
| 第二順位 | 祖父母、兄弟姉妹、実孫 |
| 第三順位 | 曾祖父母、伯父母、叔父母、甥、姪、曾孫 |
同順位の相続人の相続分は均等です。
日本の民法との最大の違いは、父母が第一順位に入る点です。 日本では、子がいれば父母は相続人になりません。ベトナム法では、配偶者・子・父母が同時に相続人となります。
被相続人に配偶者と子がいて、さらにベトナムに父母が存命の場合、日本の民法の感覚で相続人を絞ると、参加すべき人が漏れます。 相続人が一人でも欠けた協議は無効です。
また、養親・養子が実親・実子と同じ順位に入る点も、確認が必要です。
ベトナム法には、遺言があっても一定の近親者に保障される取り分の制度もあります。法令は改正されることがありますので、実際の適用にあたってはその時点の条文を確認する必要があります。
3. ベトナム法であることを日本の窓口に示す必要があります
準拠法がベトナム法になる以上、日本の法務局や金融機関に対して、
- ベトナム法ではどのような相続人の範囲・相続分になるのか
- その根拠となる条文は何か
を示すことになります。実務上は、条文とその日本語訳を提出します。
日本人の相続なら戸籍を出せば済むところが、ベトナム籍の被相続人の場合は「その国の法律の内容を証明する」作業が加わります。
4. 相続人の確定
被相続人に日本の戸籍はありません。ベトナム側の証明書と日本側の資料を組み合わせて相続関係を証明します。
ベトナム側で取得する資料
- 出生証明書(Giấy khai sinh)
- 婚姻証明書(Giấy chứng nhận kết hôn)
- 死亡証明書(Giấy chứng tử)
- 居住情報の確認書
紙の家族簿(Sổ hộ khẩu)は廃止され、居住情報は国家人口データベースで管理されています。父母が存命かどうかの確認も必要になるため、収集すべき書類の範囲は日本の相続より広くなります。
日本側で取得できる資料
- 住民票の除票:外国籍の方も住民基本台帳に記録されており、世帯構成や在留資格、国籍が記載されています
- 外国人登録原票:2012年7月まで運用されていた外国人登録制度の記録で、現在は出入国在留管理庁が保管しています
- 日本での死亡届の記載事項証明書
ベトナム側の書類だけで組み立てようとして行き詰まるご相談が多いのですが、日本側の資料と組み合わせることで説明がつくケースは少なくありません。
法定相続情報一覧図は使えません
法務局の法定相続情報証明制度は、日本の戸籍によって相続関係を証明する仕組みです。被相続人が外国籍で日本の戸籍がない場合は利用できません。金融機関が5つあれば、5か所すべてに証明資料一式を提出することになります。
5. ベトナムにいる相続人の署名
相続人がベトナム在住でベトナム籍であれば、印鑑登録はできず、在外公館の署名証明も利用できません。ベトナムの公証事務所で署名について公証を受けます。
相続人が日本国籍でベトナム在住の場合は、在ベトナム日本国大使館・総領事館で署名証明を取得します。
ベトナムはアポスティーユ条約に加盟していないため、認証が必要になった場合は領事認証の手続きになります。日本の法務局や金融機関は、公証書に日本語訳を添えれば受理するのが一般的ですが、扱いは提出先によって異なります。
相続人ごとに必要書類が違うため、全員分が揃うまで手続きは完了しません。
6. 日本の相続税
日本国内にある財産は、被相続人・相続人の国籍や住所にかかわらず日本の相続税の課税対象です。基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数です。
ベトナム法が適用される場合に「法定相続人の数」をどう数えるかは論点になり得ます。父母が相続人に含まれることで人数が変わる可能性もあります。申告にあたっては税理士の判断が必要です。
7. 期間の見込み
全体で6か月から1年が目安です。
| 工程 | 目安 |
|---|---|
| 法務局への確認と、ベトナム法の内容を示す資料の準備 | 1〜2か月 |
| 日本側資料(住民票の除票、外国人登録原票など)の取得 | 1〜2か月 |
| ベトナム側の証明書の取得(父母の存否の確認を含む) | 1〜2か月 |
| 日本語訳の作成 | 数週間 |
| 遺産分割協議書の作成と公証、国際郵送 | 1〜2か月 |
| 金融機関ごとの証明資料一式の提出と払戻し | 1行あたり1か月前後 |
相続税の申告期限は10か月です。上記の工程を収めるには余裕がありません。
当事務所の対応
行政書士アーチ事務所は、大阪を拠点に15年以上、在日外国人の方の在留資格申請をはじめとする手続きに携わってきました。技能実習・特定技能をはじめとする在留資格の実務を通じて、来日から在留状況までの資料を扱っています。
- 管轄の法務局への確認と、ベトナム法の内容を示す資料の準備
- 住民票の除票・外国人登録原票など日本側資料の調査
- ベトナム側で取得すべき証明書の範囲の特定
- 相続人の範囲の確認と相続関係説明図の作成
- 遺産分割協議書の作成
- 金融機関ごとの証明資料一式の準備と、解約・払戻し手続きのサポート
- 相続登記が必要な場合の司法書士、相続税申告が必要な場合の税理士との連携
よくあるご質問
Q. 日本に住んでいたのにベトナムの法律が適用されるのですか。 A. ベトナム民法680条1項が相続を被相続人の国籍国の法によると定めているため、日本法への反致は生じません。居住期間の長短は結論を変えません。
Q. ベトナムにいる父母も相続人になりますか。 A. ベトナム民法では第一順位に実父母・養父母が含まれます。配偶者や子と同時に相続人となります。
Q. 日本にある不動産はどちらの法律で判断しますか。 A. 管轄の法務局に確認して進めます。
Q. 日本の民法で分けることはできませんか。 A. 相続人全員の合意で分割内容を決めること自体は可能ですが、誰が相続人であるかの前提はベトナム法によります。
Q. 被相続人が日本に帰化していた場合は。 A. 死亡時に日本国籍であれば日本法が本国法となり、日本の戸籍も存在します。帰化前の親族関係を示すためにベトナム側の資料が必要になることがあります。
お問い合わせ
ご相談の際は、被相続人の国籍・死亡日・来日時期と在留状況、相続人の人数・続柄・国籍・居住地(父母の存否を含む)、日本にある財産の種類をご用意ください。日本語・中国語どちらでも対応いたします。
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