フィリピン在住だった親が日本に財産を残して亡くなった場合|相続人もフィリピンにいるケース
被相続人がフィリピンに住んでいて、日本に不動産や預金だけが残っている場合の相続手続きを解説します。フィリピン法が財産の種類を問わず適用されるため相続人の範囲が日本の民法と異なります。日本の財産の把握方法と申告期限の違いを整理します。
フィリピン在住だった親が日本に財産を残して亡くなった場合
かつて日本で働いていた、あるいは日本に不動産を持っていた。そうした経緯で、フィリピンにお住まいだったフィリピン籍の方が、日本に財産を残したまま亡くなるケースがあります。相続人もフィリピンにいる。日本には財産だけがある。
押さえるべき点は2つです。 誰が相続人になるかがフィリピン法で決まること。そして、日本の財産の全容をフィリピンから把握しなければならないことです。
この記事の要点
- 準拠法はフィリピン法です。フィリピン民法16条が相続を被相続人の本国法によるとしているため、日本法への反致は生じません。
- フィリピン民法16条は動産不動産を問わず本国法によるとしているため、財産の種類によって適用される法律が分かれることはありません。日本にある不動産も預金も、フィリピン法で判断します。
- フィリピン法では婚外子(非嫡出子)も相続人となり、兄弟姉妹は強制相続人に含まれません。
- 被相続人がイスラム教徒の場合は、フィリピン民法ではなくムスリム身分法が適用されます。
- 日本にある財産の把握には、2026年2月2日から運用が始まった所有不動産記録証明制度が使えます。
1. 準拠法はフィリピン法で、分裂しません
日本の法の適用に関する通則法第36条により、被相続人がフィリピン籍であればフィリピンの法律を見ることになります。
フィリピン民法16条は、相続については動産不動産を問わず被相続人の本国法を適用すると規定しています。日本法への反致は生じず、日本にある財産はすべてフィリピン法で判断します。
国によっては、不動産は所在地の法律、動産は別の法律と、財産の種類によって適用される法律が分かれることがあります。フィリピン法にはその区分がありません。判断が一本化される分、見通しは立てやすくなります。
2. 相続人の範囲
フィリピン民法887条は、遺言によっても奪うことのできない相続人(強制相続人)として、次の者を挙げています。
- 嫡出子およびその卑属
- 嫡出子がいない場合の、嫡出の親およびその尊属
- 配偶者
- 認知された婚外子、法的擬制による婚外子
- その他の非嫡出子
子と配偶者は両方が相続人になります。婚外子も相続人となる一方、兄弟姉妹は強制相続人に含まれません。 日本の民法の感覚で相続人を絞ると、参加すべき人が漏れます。
日本の法務局や金融機関に対しては、フィリピン法の条文とその日本語訳を提出して説明することになります。
フィリピン法の内容は改正されることがあります。実際の適用にあたっては、その時点の条文を確認する必要があります。
3. イスラム教徒の場合は別の法律です
フィリピンは、信仰する宗教によって身分関係に適用される法律が異なる国です。被相続人がイスラム教徒である場合は、フィリピン民法ではなくムスリム身分法が適用され、相続の規律が大きく異なります。被相続人の信仰について確認が必要な論点です。
4. 相続人の確定
フィリピンには戸籍にあたる制度がなく、フィリピン統計庁(PSA)が発行する個別の証明書を組み合わせて相続関係を証明します。
- 出生証明書(Birth Certificate)
- 婚姻証明書(Marriage Certificate)
- 死亡証明書(Death Certificate)
- 婚姻記録がないことの証明(CENOMAR)
婚外子がいるかどうかの確認は、出生証明書を個別にたどる作業になります。
被相続人が過去に日本に居住していた場合は、日本側にも記録が残っている可能性があります。住民票の除票や、出入国在留管理庁が保管する外国人登録原票が資料になります。
被相続人が外国籍で日本の戸籍がないため、法定相続情報一覧図は利用できません。
5. 日本にある財産の把握
被相続人がフィリピンにおられた場合、日本にある財産の全容を相続人が把握できていないことがあります。郵便物を確認できず、どの銀行に口座があったかも分からない、という状態です。
2026年2月2日から運用が始まった所有不動産記録証明制度では、被相続人が全国のどこに不動産を所有していたかを法務局に一括照会し、証明書の交付を受けられます。不動産を所有している人またはその相続人が請求でき、全国どこの法務局でも、窓口・郵送・オンラインで請求できます。
未登記建物や、登記上の住所・氏名が現況と一致しない不動産は記録されない可能性があります。
6. フィリピンにいる相続人の署名
相続人がフィリピン籍でフィリピン在住であれば、フィリピンの公証人(Notary Public)の面前で署名し、認証を受けます。フィリピンでは弁護士が公証人を務めます。
日本の法務局や金融機関は、公証人の認証書に日本語訳を添えれば受理するのが一般的で、アポスティーユまで求められる場面は限られます。取得が必要になった場合は、フィリピン外務省(DFA)で発行を受けられます。
7. 申告期限が日本とフィリピンで違います
日本国内にある財産は、被相続人・相続人がいずれもフィリピン籍・フィリピン在住であっても、日本の相続税の課税対象です。基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、申告期限は死亡を知った日の翌日から10か月です。
フィリピンには遺産税(Estate Tax)があり、純遺産に対して原則6%の税率が適用されます。控除の内容は被相続人の属性によって異なります。申告期限も日本とは異なります。
2つの国で期限が異なるため、それぞれを別々に管理する必要があります。 二重課税の調整については税理士の確認が必要です。
8. 不動産を相続した後のこと
日本に不動産を相続した場合、相続登記(取得を知った日から3年以内、義務)を済ませた後も、固定資産税の納付、建物の管理、近隣への対応が続きます。
さらに、2026年4月1日から住所等変更登記が義務化されています。所有者は住所や氏名等を変更したときは変更があった日から2年以内に登記をしなければならず、正当な理由なく行わない場合は5万円以下の過料の適用対象となります。2026年4月1日より前に住所等を変更していた場合も、2028年3月31日までに変更登記が必要です。
9. 期間の見込み
全体で8か月から1年が目安です。
| 工程 | 目安 |
|---|---|
| 準拠法の確認と、フィリピン法の内容を示す資料の準備 | 1〜2か月 |
| 日本にある財産の調査(所有不動産記録証明制度の利用を含む) | 1〜2か月 |
| PSA証明書の取得と、婚外子の有無の確認 | 1〜2か月 |
| 日本語訳の作成 | 数週間 |
| 遺産分割協議書の作成と公証人の認証、国際郵送 | 1〜2か月 |
| 相続登記、金融機関ごとの提出と払戻し | 2〜3か月 |
相続人の範囲の確認が終わっていない段階で協議書を作ると、やり直しが発生します。
当事務所の対応
行政書士アーチ事務所は、大阪を拠点に15年以上、海外との往来がある方の手続きに携わってきました。日本語・中国語・英語での対応が可能です。
- 準拠法の確認と、フィリピン法の内容を示す資料の準備
- 所有不動産記録証明制度を用いた不動産の把握と、金融機関への照会
- PSA証明書の取得の手配と日本語訳
- 相続人の範囲の確認と相続関係説明図の作成
- 遺産分割協議書の作成
- 金融機関ごとの証明資料一式の準備と、解約・払戻し手続きのサポート
- 相続登記が必要な場合の司法書士、相続税申告が必要な場合の税理士との連携
よくあるご質問
Q. 日本にある預金も日本の民法で分けてよいのではないですか。 A. 被相続人がフィリピン籍であれば、日本にある財産はすべてフィリピン法で判断します。誰が相続人であるかの前提が変わります。
Q. 兄弟姉妹は相続できませんか。 A. フィリピン民法では強制相続人に含まれません。遺言がある場合の扱いは別途の確認が必要です。
Q. 被相続人がどこに不動産を持っていたか分かりません。 A. 所有不動産記録証明制度により、法務局に一括して照会できます。相続人からも請求できます。
Q. 日本に来ずに手続きできますか。 A. 預貯金の相続については可能な場合が多くあります。不動産の売却まで行う場合は、代理人を立てるか来日が必要になることがあります。
Q. 相続人全員がフィリピンにいます。誰が日本の窓口とやり取りしますか。 A. 日本国内の専門家に委任していただくのが一般的です。委任状についても公証人の認証が必要になります。
お問い合わせ
ご相談の際は、被相続人の国籍・死亡日・最後の居住地と過去の日本での居住歴・信仰、相続人の人数・続柄・国籍、日本にある財産の種類をご用意ください。日本語・中国語どちらでも対応いたします。
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