在日フィリピン人の親が亡くなり、相続人がフィリピンにいる場合|相続人の範囲が日本と違います
日本に住んでいたフィリピン籍の方が亡くなり、相続人がフィリピンにいる場合の相続手続きを解説します。フィリピン法が適用され、非嫡出子も相続人となる一方で兄弟姉妹は相続人になりません。相続人の範囲の違いと必要書類を整理します。
在日フィリピン人の親が亡くなり、相続人がフィリピンにいる場合
日本に長く住んでいたフィリピン籍の方が亡くなり、日本に預金や不動産が残っている。相続人である子や配偶者はフィリピンにいる——この組み合わせで最初に押さえるべきことは、書類ではありません。誰が相続人になるかです。
フィリピン法では、日本の民法とは相続人の範囲が異なります。日本の民法で分けるつもりで協議書を作ると、参加すべき人が漏れることになります。
この記事の要点
- 被相続人がフィリピン籍の場合、準拠法はフィリピン法です。フィリピン民法16条が相続を被相続人の本国法によるとしているため、日本法への反致は生じません。
- 日本に何十年住んでいた場合でも、結論は変わりません。
- フィリピン法では、婚外子(非嫡出子)も相続人となります。 日本の民法を前提に相続人を絞ると、漏れが生じます。
- 一方、フィリピン民法では兄弟姉妹は相続人になりません。
- 被相続人がイスラム教徒の場合は、フィリピン民法ではなくムスリム身分法が適用されるため、別の確認が必要です。
1. 準拠法はフィリピン法です
日本の法の適用に関する通則法第36条は、相続は被相続人の本国法によると定めています。被相続人がフィリピン籍であれば、フィリピンの法律を見ることになります。
フィリピン民法16条は、相続については動産不動産を問わず、被相続人の本国法を適用すると規定しています。フィリピン法が再びフィリピン法を指すため、日本法に戻る反致は生じません。
被相続人が日本に居住していた期間の長短は、この結論を変えません。日本にある不動産も、日本にある預金も、フィリピン法で判断することになります。
2. 相続人の範囲が日本の民法と異なります
フィリピン民法887条は、遺言によっても奪うことのできない相続人(強制相続人)として、次の者を挙げています。
- 嫡出子およびその卑属
- 嫡出子がいない場合の、嫡出の親およびその尊属
- 配偶者
- 認知された婚外子、法的擬制による婚外子
- その他の非嫡出子
順位を定めたものではない点に注意が必要です。 子と配偶者は両方が相続人になります。親と尊属だけは、子がいない場合に限って相続人となります。
日本の民法との主な違い
| 論点 | 日本の民法 | フィリピン民法 |
|---|---|---|
| 婚外子 | 相続人。相続分は嫡出子と同じ | 相続人。相続分の扱いが嫡出子と異なる |
| 兄弟姉妹 | 子・親がいない場合に相続人 | 強制相続人に含まれない |
在日フィリピン人の相続では、婚外子の存在が実務上の論点になります。 日本の民法の感覚で相続人を絞ると、参加すべき人が漏れた協議書ができあがります。相続人が一人でも欠けた協議は無効です。
フィリピン法の内容は改正されることがあります。実際の適用にあたっては、その時点の条文を確認する必要があります。
3. イスラム教徒の場合は別の法律です
フィリピンは、信仰する宗教によって身分関係に適用される法律が異なる国です。一般にはフィリピン民法が適用されますが、被相続人がイスラム教徒である場合はムスリム身分法が適用されます。
ムスリム身分法の相続の規律は、フィリピン民法とは大きく異なります。被相続人の信仰について確認が必要な論点です。
4. フィリピン法であることを日本の窓口に示す必要があります
準拠法がフィリピン法になる以上、日本の法務局や金融機関に対して、
- フィリピン法ではどのような相続人の範囲・相続分になるのか
- その根拠となる条文は何か
を示すことになります。実務上は、条文とその日本語訳を提出します。
日本人の相続なら戸籍を出せば済むところが、フィリピン籍の被相続人の場合は「その国の法律の内容を証明する」作業が加わります。
5. 相続人の確定
被相続人に日本の戸籍はありません。フィリピンにも戸籍にあたる制度はなく、フィリピン統計庁(PSA)が発行する個別の証明書を組み合わせて相続関係を証明します。
- 出生証明書(Birth Certificate)
- 婚姻証明書(Marriage Certificate)
- 死亡証明書(Death Certificate)
- 婚姻記録がないことの証明(CENOMAR)
婚外子がいるかどうかの確認は、出生証明書を個別にたどる作業になります。 一つの書類で相続人の全員を示すことはできません。
日本側で取得できる資料
日本側にも資料があります。
- 住民票の除票:外国籍の方も住民基本台帳に記録されており、世帯構成や在留資格、国籍が記載されています
- 外国人登録原票:2012年7月まで運用されていた外国人登録制度の記録で、現在は出入国在留管理庁が保管しています
- 日本での死亡届の記載事項証明書
フィリピン側の書類だけで組み立てようとして行き詰まるご相談が多いのですが、日本側の資料と組み合わせることで説明がつくケースは少なくありません。
法定相続情報一覧図は使えません
法務局の法定相続情報証明制度は、日本の戸籍によって相続関係を証明する仕組みです。被相続人が外国籍で日本の戸籍がない場合は利用できません。金融機関が5つあれば、5か所すべてに証明資料一式を提出することになります。
6. フィリピンにいる相続人の署名
相続人がフィリピン在住でフィリピン籍であれば、印鑑登録はできず、在フィリピン日本国大使館の署名証明も利用できません。フィリピンの公証人(Notary Public)の面前で署名し、認証を受けます。フィリピンでは弁護士が公証人を務めます。
相続人が日本国籍でフィリピン在住の場合は、在フィリピン日本国大使館で署名証明を取得します。
相続人ごとに必要書類が違うため、全員分が揃うまで手続きは完了しません。
7. 相続放棄について
日本の家庭裁判所で相続放棄の申述ができるかどうかは、準拠法であるフィリピン法に相続放棄にあたる制度があるかによって判断が分かれる論点です。負債がある事案では、早い段階での確認が必要になります。
8. 日本の相続税
日本国内にある財産は、被相続人・相続人の国籍や住所にかかわらず日本の相続税の課税対象です。基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数です。
フィリピン法が適用される場合に「法定相続人の数」をどう数えるかは論点になり得ます。申告にあたっては税理士の判断が必要です。
9. 期間の見込み
全体で6か月から1年が目安です。
| 工程 | 目安 |
|---|---|
| 準拠法の確認と、フィリピン法の内容を示す資料の準備 | 1〜2か月 |
| 日本側資料(住民票の除票、外国人登録原票など)の取得 | 1〜2か月 |
| PSA証明書の取得と、婚外子の有無の確認 | 1〜2か月 |
| 日本語訳の作成 | 数週間 |
| 遺産分割協議書の作成と公証人の認証、国際郵送 | 1〜2か月 |
| 金融機関ごとの証明資料一式の提出と払戻し | 1行あたり1か月前後 |
相続税の申告期限は10か月です。上記の工程を収めるには余裕がありません。
当事務所の対応
行政書士アーチ事務所は、大阪を拠点に15年以上、在日外国人の方の在留資格申請をはじめとする手続きに携わってきました。日本語・中国語・英語での対応が可能です。
- 準拠法の確認と、フィリピン法の内容を示す資料の準備
- 住民票の除票・外国人登録原票など日本側資料の調査
- PSA証明書の取得の手配と日本語訳
- 相続人の範囲の確認と相続関係説明図の作成
- 遺産分割協議書の作成
- 金融機関ごとの証明資料一式の準備と、解約・払戻し手続きのサポート
- 相続登記が必要な場合の司法書士、相続税申告が必要な場合の税理士との連携
よくあるご質問
Q. 日本に住んでいたのにフィリピンの法律が適用されるのですか。 A. フィリピン民法16条が相続を被相続人の本国法によると定めているため、日本法に戻る反致は生じません。居住期間の長短は結論を変えません。
Q. 婚外子がいるかどうか分かりません。 A. PSAの出生証明書を個別に確認していく作業になります。相続人が漏れた協議書は無効になりますので、確認が必要です。
Q. 日本の民法で分けることはできませんか。 A. 相続人全員の合意で分割内容を決めること自体は可能ですが、誰が相続人であるかの前提はフィリピン法によります。
Q. 被相続人が日本に帰化していた場合は。 A. 死亡時に日本国籍であれば日本法が本国法となり、日本の戸籍も存在します。帰化前の親族関係を示すためにフィリピン側の資料が必要になることがあります。
Q. 相続人がフィリピンと日本に分かれています。 A. 相続人の居住地が分かれていても手続きは進められます。日本にいる相続人は印鑑証明書、フィリピンにいる相続人は公証人の認証で、同じ協議書に参加します。
お問い合わせ
ご相談の際は、被相続人の国籍・死亡日・来日時期と在留状況・信仰、相続人の人数・続柄・国籍・居住地、日本にある財産の種類をご用意ください。日本語・中国語どちらでも対応いたします。
関連記事
- フィリピン在住だった親が日本に財産を残して亡くなった場合
- 日本人の親が亡くなり、フィリピン籍の相続人がフィリピンにいる場合
- 被相続人が外国籍で日本の戸籍がない場合の相続人確定
- 法定相続情報一覧図は海外在住者にも使えるか
日本の相続手続きで止まりそうな場合はご相談ください
相続人・財産・期限・必要書類を確認し、日本側で進めるべき順番を整理します。中国語での相談にも対応しています。
問い合わせページへ