在日シンガポール人の親が亡くなり、相続人がシンガポールにいる場合

日本に住んでいたシンガポール籍の方が亡くなり、相続人がシンガポールにいる場合の相続手続きを解説します。シンガポール法は動産と不動産で適用される法律を分けるため日本法に行き着く方向になりますが、戸籍がないため相続人の確定に時間がかかります。

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在日シンガポール人の親が亡くなり、相続人がシンガポールにいる場合

日本に長く住んでいたシンガポール籍の方が亡くなり、日本に預金や不動産が残っている。相続人である子や配偶者はシンガポールにいる——この組み合わせでの難しさは、相続人が誰かを日本の窓口に納得させることにあります。

シンガポールには戸籍にあたる制度がありません。日本人の相続なら戸籍謄本で済む証明を、複数の書類を組み合わせて作り上げることになります。

この記事の要点

  • シンガポール法は、動産は被相続人の死亡時の住所地(domicile)の法、不動産は所在地の法によるという分け方をとります。
  • 被相続人が日本に生活の本拠を置いていた場合、日本にある不動産も預金も、いずれの経路をたどっても日本法に行き着く方向になります。
  • 被相続人がイスラム教徒の場合は、ムスリム法による相続の規律が関わるため、別の確認が必要です。
  • 被相続人に日本の戸籍がないため、法定相続情報一覧図は利用できません。
  • 相続人の証明には、シンガポール側の登記記録と宣誓供述書、日本側の住民票の除票や外国人登録原票を組み合わせます。

1. 準拠法の判断

日本の法の適用に関する通則法第36条は、相続は被相続人の本国法によると定めています。被相続人がシンガポール籍であれば、シンガポールの法律を見ることになります。

シンガポール法は、相続財産を動産と不動産に分け、動産は被相続人の死亡時の住所地(domicile)の法、不動産はその所在地の法によるという考え方をとります。

被相続人が日本に生活の本拠を置いていた場合、

  • 日本にある不動産は、所在地法として日本法
  • 預貯金などの動産は、住所地法として日本法

となり、いずれも日本法に行き着く方向になります。相続人の範囲と相続分は日本の民法で判断することになります。

住所地(domicile)の判断は、居住期間だけで決まるものではありません。 在留資格の種類、生活の実態、シンガポールとの結びつきの強さを確認したうえで判断します。当事務所が在留資格業務で扱ってきた資料が、判断の材料になります。

2. イスラム教徒の場合

シンガポールでは、イスラム教徒について別の法体系が適用される仕組みがあります。被相続人がイスラム教徒である場合、相続の規律が異なるため、確認が必要な論点です。

3. 相続人の確定

被相続人に日本の戸籍はなく、シンガポールにも戸籍にあたる制度がありません。次の資料を組み合わせて相続関係を証明します。

シンガポール側で取得する資料

  • 入出国管理局(ICA)が発行する出生・死亡に関する登記記録
  • 婚姻登記所(ROM)が発行する婚姻証明書
  • NRIC(身分証)などの本人確認資料
  • 公証人の面前で作成する宣誓供述書(Statutory Declaration)

シンガポールでは「この人の相続人はこの3人で全員です」ということを一つの書類で示すことができません。宣誓供述書に何を記載するかが、手続きの成否を分けます。 記載内容は提出先によって異なります。当事務所では、日本側の金融機関・法務局が求める記載事項を確認したうえで文案を作成します。

日本側で取得できる資料

日本側にも資料があります。

  • 住民票の除票:外国籍の方も住民基本台帳に記録されており、世帯構成や在留資格、国籍が記載されています
  • 外国人登録原票:2012年7月まで運用されていた外国人登録制度の記録で、現在は出入国在留管理庁が保管しています
  • 日本での死亡届の記載事項証明書

シンガポール側の資料だけで組み立てようとして行き詰まるご相談が多いのですが、日本側の資料と組み合わせることで説明がつくケースは少なくありません。

法定相続情報一覧図は使えません

法務局の法定相続情報証明制度は、日本の戸籍によって相続関係を証明する仕組みです。被相続人が外国籍で日本の戸籍がない場合は利用できません。金融機関が5つあれば、5か所すべてに証明資料一式を提出することになります。

4. シンガポールにいる相続人の署名

相続人がシンガポール在住で日本国籍でない場合、印鑑登録はできず、在シンガポール日本国大使館の署名証明も利用できません。シンガポールの公証人(Notary Public)の面前で署名し、認証を受けます。

相続人が日本国籍でシンガポール在住の場合は、在シンガポール日本国大使館で署名証明を取得します。

相続人ごとに必要書類が違うため、全員分が揃うまで手続きは完了しません。

日本の法務局や金融機関は、公証人の認証書に日本語訳を添えれば受理するのが一般的で、アポスティーユまで求められる場面は限られます。

5. シンガポールの遺産手続きとは別です

シンガポールでは、遺産を承継するために裁判所からGrant of Probate(遺言がある場合)またはLetters of Administration(遺言がない場合)を得る手続きがあります。

この許可は、日本にある財産には直接の効力を持ちません。 日本の金融機関も法務局も、日本の実務に沿った書類を求めます。シンガポール側の書類は、日本での手続きを補強する資料として使うことになります。

6. 日本の相続税

日本国内にある財産は、被相続人・相続人の国籍や住所にかかわらず日本の相続税の課税対象です。基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数です。

シンガポールの遺産税は2008年に廃止されています。国外財産まで日本の課税対象になるかどうかの判定は、税理士による確認が必要です。

7. 期間の見込み

全体で6か月から1年が目安です。

工程目安
住所地(domicile)の判断と準拠法の確認1か月前後
日本側資料(住民票の除票、外国人登録原票など)の取得1〜2か月
シンガポールの登記記録の取得1か月前後
宣誓供述書の文案の確定と公証人の認証1〜2か月
日本語訳の作成と国際郵送数週間
金融機関ごとの証明資料一式の提出と払戻し1行あたり1か月前後

相続税の申告期限は10か月です。上記の工程を収めるには余裕がありません。

当事務所の対応

行政書士アーチ事務所は、大阪を拠点に15年以上、在日外国人の方の在留資格申請をはじめとする手続きに携わってきました。日本語・中国語・英語での対応が可能です。

  • 住所地の判断に必要な在留状況の整理
  • 住民票の除票・外国人登録原票など日本側資料の調査
  • 提出先の要件に合わせた宣誓供述書の文案の作成
  • 遺産分割協議書の作成
  • 金融機関ごとの証明資料一式の準備と、解約・払戻し手続きのサポート
  • 相続登記が必要な場合の司法書士、相続税申告が必要な場合の税理士との連携

よくあるご質問

Q. シンガポールには戸籍がありません。相続人をどう証明しますか。 A. ICAやROMの登記記録、宣誓供述書、日本側の住民票の除票や外国人登録原票を組み合わせて証明します。

Q. 外国人登録原票は誰でも請求できますか。 A. 亡くなった方の記録については、相続人からの請求という形で開示を求めることになります。開示までに一定の期間がかかります。

Q. シンガポールで先に手続きをすれば、日本の財産も動きますか。 A. 動きません。日本にある財産は日本で別途手続きが必要です。

Q. 相続人がシンガポールと日本に分かれています。 A. 相続人の居住地が分かれていても手続きは進められます。日本にいる相続人は印鑑証明書、シンガポールにいる相続人は公証人の認証で、同じ協議書に参加します。

Q. 被相続人が日本に帰化していた場合は。 A. 死亡時に日本国籍であれば日本法が本国法となり、日本の戸籍も存在します。帰化前の親族関係を示すためにシンガポール側の資料が必要になることがあります。

お問い合わせ

ご相談の際は、被相続人の国籍・死亡日・来日時期と在留状況・信仰、相続人の人数・続柄・国籍・居住地、日本にある財産の種類をご用意ください。日本語・中国語どちらでも対応いたします。

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